曇り空の日曜日は、決まって同じ音楽が聴こえてくる。
その音楽は、早くなったり遅くなったりしながら、オレの身体にまとわりついて離れなかった。

泥にまみれたハサミが、ベッドに放り投げられている。
そうだ。
今朝方まで雨がふっていたっけ。
そうだ。
オレの家の周りに、大きな水たまりができてたっけ。
そうだ。
大きな水たまりの水は、じゅくじゅくと音をたてながらゆっくり泥になったんだ。

28人の指揮者たちが、一斉にタクトをふる。
雨が泥になる。
そういう音楽がオレの身体にまとわりつく。
泥まみれのハサミが、毎週日曜日に一つずつ増えてゆく。

大きな何かから、小さな何かを切り取って、オレは自分のスクラップブックを作った。
どうだって良いものの中から、どうだって良くないものを切り離す為に、オレはそのハサミを振り回し、雨の日はいつも泥まみれになった。

28人の指揮者たちの演奏が終わると、日曜日が終わる。
オレは独り、パチパチと手を叩く。
彼も独り、パチパチと手を叩く。

そう。
いつの間にか、オレの隣には彼がいた。
いや、彼の隣にオレがいたのかもしれない。

オレは彼だったのに、泥だらけのハサミで切り取られてしまったんだ。
誰に?
彼…、いや、オレにだよ。

どうだって良いものの中から、どうだって良くないものを切り離す為に、彼はそのハサミを振り回した。
オレは、その、どうだっていいものの方だった。
彼は、 雨の日はいつも泥まみれになった。

オレは彼を捜した。
彼を捜し出してどうするつもりだったんだろう。
冷たい雨が降りしきる中、ハサミを振り回し、泥まみれになりながらオレを切り離した彼に、一体どんな用事があるというんだろう。

待ちわびたニュースが、泥まみれになる。
なんて書いてあるのか、読めなくなる。
見開き546mm×812mmの中の、たった35mm×93mm。
13054文字の中の、たった191文字
の中にできた水たまりの水は、じゅくじゅくと音をたてながらゆっくり泥になっていった。




end.