通しで読む。
そうしてもう一度。
「まあ、別にいいんじゃない?」
随分感傷的に書き投げたような最終話だったが、 これでめでたくこの話しは、オシマイだ。
メールでテキストを送ると、すぐに浅川の携帯電話が鳴った。
「今アップされたってよ。確認するから…サイト出して
。あと、ライター貸して」
煙草をくわえながら、浅川が手を伸ばす。
その手に緑の100円ライターを乗せると、サキはパソコンの画面 に目を向ける。
2度ほどリンクを辿ると、最終話が無事アップされているのが確認できた。
曇り空の日曜日は…と、数行読んで止める。

「さっきの紙」
言って横を見ると、浅川はうまそうに煙草をふかしてした。
「紙?何の事?」
わざとらしくそう返すと、今できたばかりの小さな灰を灰皿に落とす。
その灰皿には、ついさっきまでは無かったであろう、何かを燃やしたような黒い灰があった。
「残念でした」
浅川は冷たくそう言うと、まだ長い煙草を、その黒い灰に押しあてた。
「オレはお前に書かせることがお仕事なんだよ」





「お前…」
浅川を睨み付けるが、言葉が続かない。

「結論は出ただろう? もしも彼が見つかったとしても、会いに行く理由があるか?」
その通りだった。
最終話が終わるころ、色んな事に気がつきはじめていた。
もう、彼に会って聞きたい事は何もなかった。
今ならきっと、全て自分が答えてくれる。
「お前は結局、自分を捜してるんだよ」
そうだった。
前にもこんなことがあったじゃないか。
結局自分を捜してる。
あの時も浅川はそう言っていた。
「遺失物の“魔少年”は、はじめからお前の中に居るんだよ」
「…
…」
うん、と答えたつもりが、声は出なかった。
彼は、オレの中にいる。
オレが彼だと思っている彼は、オレなんだ。
そうでなければ、なぜ泥だらけのあのハサミが、今もオレのベッドに放り投げられているというんだ。
そうでなければ、イヤな音楽が、終わっても終わってもまた始まる理由がない。

遺失物。
あいつを捨てたのはオレじゃないか…。

「彼も…、一之瀬洋平も、結局は自分の中にある“魔少年”を捜してるんだと思うよ」
浅川が、妙に優しい声を出す。
「彼が捜してるのは……」
この期に及んで、まだ抵抗する気なのか…。
そう力無く思いながらサキは続ける。
「彼が捜してるのは……、小林真太郎だ」
胸が苦しい。
「そう、だけどそれは、お前が一之瀬洋平を捜してるのと同じだ」
浅川は、簡単に、淀み無くそう答える。
「そんなのは、ガキのすることだよ」

「お前は、書けよ」

「捕まえたいなら、いくらでも書けよ」

きっと、書いて書いて書いてるうちに、うっかり捕まえてしまうようなものなんじゃないか。
そう浅川は思っていた。
いつか抵抗できなくなる時が来る。
だけど、それはもっと後。
彼の書き捨てたほんの少しのテキストでは、まだまだ、あまりに少なすぎた。





end.