スーが軽やかに浮遊し、その大きな瞳を細め微笑むと、小さなインコやカナリアたちがその廻りを飛び交い歌った。
パリのある宮廷に招かれたエドワード・シャイルサーカスは、当時ベルリンで最も名声を得ていたスウィトナー楽団の演奏の中(曲目は、グスタフ・マーラーの交響曲第五番・第三楽章・アダージェットであったという記録が残されている)、スーの空中浮遊を披露した。
宮廷でそのショウを見ていたという画家ヴェルツェーニは、以下のように自書に書き残している。
全く信じられない光景であった。
まるでギリシア彫刻のように白く美しい裸体で、彼女は登場した。
そして、上から下へ、右から左へと、何度も真鍮の輪をくぐり“どこにも仕掛けはございませんのよ”といったように微笑むと、ツーっと、空中へ浮遊したのである!
それを合図に壇上では楽団の演奏が始まり、小鳥が歌い蝶が舞い、色とりどりの花びらまでもが彼女の廻りで踊っていた。
私の前に座っていたオーギュストが立ち上がり、ブラボー!と声をあげるや否や、ホォルの全ての人間が次々と立ち上がり、彼女を見上げて喝采したのである。
また、 ショウが終わってパーティの席に現れた彼女に、宴の主催者でもあったミス・ラパンは「あんなに上へ飛び上がって、恐ろしくはないかしら?」と聞いた。
スーは「まあ奥様。私はこのように下に居た方がゾっといたします。いつ天井に落っこちるとも知れませんもの!」と返したという。
ところが、ヴェルツェーニをはじめとした数々の著名人がスーを大絶賛すると同時に、彼女は魔女ではないかという噂がたちはじめたのである。
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当時のエドワード・シャイルサーカスのポスター |
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