someman's name


昔々の話だよ。

ある男が居た。
朴訥で、まともな男だった。



彼は旅をしていたんだよ。


一軒、ある宿屋が立っていた。
真っ黒で、がっしりした樹でできていたようだ。


もう夜も遅いので、かれはその家に泊めてもらった。
家の中は、空だった。


さて、男が眠りに入ろうとすると、囁く声がした。
「名前は」

酷く親しげで、そして何かに気を遣っている声だった。


男は答えなかった。


二度目に声がした。

「名前は」
今度はせかすような、何かしらどこか甘ったるい声だった。

男は何故か急に腹が立った。
足元の壁を蹴りつけた。




「名前は」
今度は、脅すような声だった。




胸の悪くなるような味だな。
ふと、そう思ったんだ。



『私の名前は、大泥棒のミソカケスだ!』
わめいて、しまいにした。




朝が来て、僕は宿を後にした。




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